本研究室は、中高齢期における健康や人間関係に関する問題について、心理学や公衆衛生の観点から健康悪化をもたらす心理・社会的課題抽出をし、中高齢者の健康行動変容のための心理的支援法の開発に取り組んでいます。具体的な問題として、介護予防の観点からフレイルの社会的側面、閉じこもり、社会的孤立、居場所、居場所感、ストレスフルライフイベント、笑いなどであり、それらの理論的整理、心理的支援法を検討しています。特に、生涯発達心理学の観点から、中高齢者が自らを取り巻く環境に適応するために、ライフレビューを用いた心理的支援による自己効力感やQOLへの効果検証をしています。また、中年期の職業人が仕事のなかに見出す遊びの感覚や職場での居場所感が就労継続にもたらす効果に関する研究を、前川製作所の協力を得て数年間調査研究を行いました。最近では、介護予防にもたらす居場所感や笑いの効果についても本格的に取り組み始めたところです。
大学院では、年に4回4つの研究室合同で、『心身ゼミ』を定期的に共催し、お互いの研究手法や理論を学びつつ、研究立案や実施についてディスカッションを重ねています。
本研究室で学位を取得された大学院生の研究テーマは以下の通りです。
・心理的well-beingが高い虚弱超高齢者における老年的超越の特徴
・脳卒中後遺症者の回復期病棟入院時の自己効力感と身体機能・ADLの関係に関する研究
・急性期病院から自宅退院した脳卒中患者の退院後の生活状況に関する調査 など。
また、本学で展開している大学院横断分野プログラム:主専攻とは異なる他分野の先端的な研究を学ぶことを通じて、自身の研究力をさらに高めることを目的としたプログラムの一つである超高齢社会学際プログラムを履修し、本研究室での研究インターンシップを希望された博士前期課程の履修生とともに研究と学びも積極的に進めています。これまで2名の建築系の大学院生を受け入れ、建築学に心理学の手法や理論を取り入れる試みを行いました。
最後に、長年実施してきた研究と実践の交流をご紹介します。回想を促すためのオリジナルな道具を開発し、回想法による参加者の認知機能の低下予防活動を展開する『思い出あらかわ』、虚弱な方のご家庭を月2回定期的に訪問し、傾聴を通じて心の安寧を保つ支援を展開している『傾聴ボランティアダンボの会』やフレイル予防のため、認知機能、身体活動の維持向上などをテーマに定期的にグループ活動を行っている『尾久地区フレイル予防隊』などの荒川区のボランティア組織とともに活動をしています。
この研究室で主に取り組んでいる研究テーマは以下の通りです。
・介護予防から災害弱者へのパラダイム転換―効果的な閉じこもり高齢者支援を目指して一
・閉じこもりの心理的バリア解消に向けた家族と共に取り組む包括的支援プログラムの開発
・ライフレビューを活用した閉じこもり高齢者支援事業のプロセス評価と専門職への普及
・高齢者の日常的な笑いがもたらす社会的フレイル・閉じこもり予防の経年的効果の検討
・生涯現役で働く意識と仕事における遊びの感覚や居場所感との関連に関する研究