東京都立大学交換留学制度

作業療法学生として留学する意味
〜別の角度から見た「日本」と「作業療法」〜

回答してくれた方:作業療法学科4年生 Aさん(2024年12月時点)
留学企画名:2024秋交換留学(東京都立大学・交換留学制度を利用) https://www.ic.tmu.ac.jp/study_overseas/list_for_studyabroad.html
留学期間:2024年9月-12月中旬(3ヶ月半)
留学先:University of Regina, Faculty of Kinesiology and Health Studies

中期留学から帰ったAさんに,今回の経験についてインタビューさせていただきました.

Q1. 留学しようと思ったきっかけを教えてください?

 高校時代から海外で学ぶことには興味がありましたが,その時は実現しませんでした.大学1年生の「基礎ゼミナール」で興味のある授業が英語で実施されていたり,2・3年生では作業療法学科主催の留学生との交流会があったりと,大学に入ってから英語に触れ続けられる機会があり,留学への気持ちが再燃しました.加えて,都立大学の国際課主催のプログラムに参加した際に,先生方から「都立大は留学の経済支援が手厚いから,興味があるなら挑戦すると良いよ」とアドバイスをいただき,本格的に留学の情報を集め始めました.荒川キャンパスは医療専門職の学部なので,臨地実習もあり,留学できる期間があるか心配でしたが,4年後期はまとまった期間の留学も可能だとわかり,挑戦する決断をしました.
 その当時,南大沢キャンパスで紹介している海外協定校に作業療法学生の受け入れ先はなかったのですが,むしろこの機会に別のことを学び,別の角度から自分の立ち位置を見てみるチャンスと捉え,時期的・学問的な条件が合致したこの大学に留学することにしました。
 留学に際しては英語試験などのいくつかのハードルを超える必要があったので,この時は英語の勉強を頑張りました!

【学業面について】

Q2.どんなところに留学していましたか?

私は,上記のような経緯でレクリエーション療法士養成課程のあるカナダの大学に交換留学をし,レクリエーション療法について学んできました.
 ここでいうレクリエーション(余暇活動)とは,自分が自由に使える時間に行う活動のことを指します.レクリエーション療法士という職業は北米を中心に発展し,日本にはまだ資格制度がない分野です.

図1.留学中のとある1日のスケジュール

Q3. 留学先ではどんな勉強をしましたか?
 

 交換留学先での授業は実践的なものが多く,サービスを実際に受けている方々との関わりを通して,たくさんの貴重な経験をすることができました.また,「Therapeutic recreation intervention」という授業では,授業内で療法士としてレクリエーションを提供することが期末課題になっていて,とても良い勉強になりました.
 日本の作業療法学科でも事例をもとに介入計画を考える課題はあったのですが,カナダでのこの授業課題では,対象者が決められていないことに衝撃を受けました.対象者の興味・関心や心身機能など,対象者に合わせて活動内容を考える作業療法士の考え方に対して,レクリエーション療法士はプログラムをまず立案して,その後にどう個人を合わせていくかという考え方でした.作業療法士は対象とする人を包括的に考える職種であることを改めて実感しました.

写真1:期末課題の練習風景

Q4.留学中,一番印象に残っていることを教えてください

 印象に残っているのは長期療養施設に居住されている方に余暇活動の評価を行わせていただいたことです.英語で面接を行うことには自信がなかったのですが,面接を行わせていただいた方に「私たち,合ってるわね」と言っていただけたことと,良い関係性を壊さずに面接を終了出来たことが何よりも嬉しかったです.私は他の留学生と交流する中で,自分のおとなしい性格を改善した方が良いと思っていたのですが,その「直した方が良い」性格にも強みがあることに気づくことが出来ました.
 また,対象者の認知機能評価には質問紙を用いる予定でしたが,この方法は時に相手との関係性が壊れてしまう可能性があったため,会話を通して情報収集を行いました.これは日本での臨地実習で, セラピストの皆様とクライエントとの関わりを多く見学させていただいき,私自身も関わらせていただいたからできた成功体験だと感じています.これまで英語を勉強してきてよかったと心の底から思えた瞬間でもありました.

【生活について】
Q5.カナダではどんな生活を送っていましたか?

 留学生活,と聞くと身構えてしまいますが,実際は新しい環境に受け入れてもらい適応していくという意味では日本の臨地実習ではじめに経験する環境ととても似ていました.知らない医療用語や初めて聞く病気の名前が飛び交う実習先と,英語が飛び交う留学先は,環境に慣れることへの大変さはありましたが,乗り越え方を知っている敵は何も怖くありませんでした.
 唯一違ったところは,留学には「休み」がないところでした.臨地実習は週に2回休日がありましたが,留学開始直後は休みの日でも心から休むことが出来ず,3ヶ月先どうなっているか全く想像ができない日々がしばらく続いていました.その時に,ふと実習で担当させていただいたクライエントの姿を思い出しました.今の私はその時のクライエントと似た状況かもしれないと思うと,なんだか1人ではないような気がしました.同時に,クライエントにもっと違った対応が出来たのではないかと,当時を振り返り,将来の患者さんとの関わりについて考えるきっかけにもなりました.

  写真2:寮の部屋から見た朝焼け

【国際交流について】
Q6.国際交流の観点から面白かった出来事を1つ教えてください.

 留学先では世界中から留学生があつまっており,様々な国の人と交流する機会がありました.日本の文化はアニメの普及により多くの人に知られている印象を受けましたが,そんな中で特に驚かれたのは,紙で何かを作る文化でした.友達が立て替えてくれた映画の予約料金を後日渡す際,綺麗な紙が売っていなかったので,ノートの切れ端で作った封筒にいれて渡したところ「これ財布じゃないの!」と喜んでくれました.「お金を包んで渡す」という文化は珍しいようで,同様の文化のあるウクライナでも,お金を渡す前には封筒から出すのが普通だそうです.これが日本固有の文化
という認識もなかったので,かなり印象的でした.写真がその実物です.のりを使わずに作ったのがポイントです(笑).折り紙の実用的なスキルも国際交流に大いに役立ちました.

    写真3:ノートで作った封筒

【インタビューを終えて】
 中期的な滞在だったからこそ,じっくりと自分の経験を日々振り返りながら,「日本」や「作業療法」のことに立ち返る時間を取れていたことが伝わってきました.充実した留学生活を送れましたね!
 東京都立大学では,学部あるいは学科単位での短期留学だけでなく,大学の国際課を通してこのような中期留学も可能です.将来留学してみたい方は,Aさんのように英語の勉強を今から頑張ってみるとよいかもしれません!(広報担当)