卒業生の活躍

「新卒から地域で働くということ」

卒業生 ロングインタビュー 第1弾

2024.04.25

【氏名】杢代 悠美永 さん
【略歴】
2017年4月 首都大学東京(現:東京都立大学) 健康福祉学部作業療法学科入学
2021年3月 首都大学東京(現:東京都立大学)卒業
2021年4月 IMSグループ介護老人保健施設 相模原ロイヤルケアセンター入職 現在
4年目の作業療法士として現場で新しいことに次々挑戦中。

Q1. 作業療法士になろうと思った理由はなんですか?

私の場合は実体験が直接的な理由です。中学生の時に、祖父が屋内で階段から落下し、脊髄損傷で一時期寝たきりの時期がありました。手術が必要だったので入院し、毎日家族でお見舞いに行っていたのですが、その時に病室で作業療法士の方にお会いしました。祖父が手術後にリハビリをして元の生活に戻っていくプロセスを見ていて、リハビリってすごいな、自分も誰かの役に立ちたいな、と思いました。病院で作業療法士という仕事を知る機会を得ましたので、高校生になって進路を決める際に、「作業療法士が気になる」と思って調べました。

―進学先に都立大を選択された理由はなんでしょう?  高校の部活動の先輩が、都立大に進学されていたので、卒業後も先輩と繋がっていたこともあり、都立大での学生生活をイメージしやすかったということがあります。また、南大沢キャンパスの体育館は、実は高校の部活で練習に使用させていただいていたこともあり、南大沢キャンパス自体への馴染みがあるということもありました。もう一つ付け加えますと、中学高校と公立を選択してきたので、金銭面も含めて親と話し合い、第一志望を都立大学に決めたという経緯になります。

Q2.作業療法学科に入学後、学生生活での苦難と楽しさを感じたことはなんでしょう?

 一つ目の苦難は臨地実習だったと思います。それまでは座学で学習をしたり、ロールプレイのような形での学習が主だったのですが、やはり実践の場で、自分の知識の足りなさに直面しました。また作業療法士の方は、診療報酬の単位のスケジュール管理や、業務のスピード感がすごく、自分は卒業後働けるのかという不安を抱いたり、評価がうまくできない不甲斐なさを痛感しました。もう一つ挙げるとすると、基礎科目の解剖や運動の知識を学習するところは苦労しました(笑)。
楽しかったのは音楽療法の授業です。音楽をリハビリに用いるという発想を持っていなかったので、いろいろな気づきや音楽の可能性を実感できました。講義以外の部分では、実習中にも友達と励まし合う電話やチャットをしたり、時には休みの日にご飯を食べたりして、同じ立場にいる同級生とお互いに声を掛け合って励まし合う経験は、心の支えだったかもしれません。

Q3.新卒から地域での仕事に挑戦してみようと思った理由 を教えてください。

―今の職場について教えていただけますか?
今勤務させていただいておりますのは、介護老人保健施設(以下、老健)です。同様の施設の中でも、在宅復帰を早く多く出すことを目指す超強化型の老健になります。入所・通所・訪問リハビリも展開している施設です。

―新卒で地域の職場を選択した理由は?
病院のリハビリと比べると、地域はじっくりとクライエントに向き合うことができるという点と、ご自宅に帰りたいというお気持ちに自分がよりしっかりと寄り添うことができるのではないか、と思ったからです。

―新卒で地域を選択することに悩む在学生もおりますが、あなたの場合はどうでしたか?
 私はもともと精神科領域に興味があり、職業自体への興味のルーツは高齢者領域なので、その2つの軸で就職活動をしていました。学生時代に精神科で看護助手としてアルバイトしていたのですが、心のリハビリのみではクライエントの希望を叶えられないと感じることがありました。そんな中、就職活動でお会いした作業療法士の方が、「心と体の両方のリハビリのバランスが大切で、精神領域で培った知識を発揮してクライエントのモチベーションに働きかけ、結果的に身体的な機能も向上するという流れがあるんじゃないかな。」とお話ししてくださり、自分の経験と相まってこの言葉がすごく心に響きました。それまで体を見る方のリハビリに苦手意識があったのですが、いろんな方の支えがあれば、またじっくりとクライエントに関われる地域でなら、自分もできるかもしれない、心と体は繋がっているし、と考えるようになりました。
 その後、老健に希望を定めて探していた際に、当施設の超強化型の老健という部分で、自分の考えるリハビリをできるかもしれないと思いました。リハビリの形態を複数展開していたので、様々な角度から地域を見て、多くの経験を積めるのではないかという期待もありました。ほとんどのスタッフが新卒で入職されており、先輩たちのフォローをたくさんいただけるという環境や、若手で作り上げている活力あふれる雰囲気を施設見学時に感じ取ったというところも決め手のひとつでした。

Q4.今、働いてみてどんな楽しさがありますか
 老健での仕事は自分の施設だけではなく、他部署や他職種、例えば福祉用具の業者の方やケアマネージャーさん、ご家族様と連携をとって、生活の基盤を整えていく必要があります。情報収集もたくさんの方面に行いますし、大変ではありますが、情報を共有することで連携がうまくいった時に、すごくやりがいを感じます。
 もう一つは、クライエントに合わせた道具や物を作ることに楽しさを感じています。便利な道具はたくさん開発されていますが、最新のものがいつも施設にあるわけではありませんし、クライエントの動作にあったものを提案する必要があります。クライエントの動作のクセや、道具が滑り落ちそうという予想をしながら、時には本人と一緒に考えながら作る作業がとても楽しいです。
 また今皆さんが楽しめるようなイベントを企画して実施していくレクリエーション委員をしています。リハビリ場面でこの動きが苦手なところを見たから、こういうふうにしたら一緒に参加できるかな、というふうに考えたりすることに、そしてまだ3−4年目の段階で委員として意見を出せるということに、やりがいを感じています。
 ―クライエントの評価をして、機能的にこの作業はできない、とするのではなく、「どうしたらできるか」と実現できる方法を考えることにご自身の発想力をフル活用しているんですね。

片麻痺の方の作業のしやすさを考えた即席の
段ボール台など筆や台紙がずれにくい工夫
介護士と協働してクライエントと写真たて作り

Q5.作業療法士に興味のある方に向けて、一言メッセージをお願いいたします。

 作業療法士は考え出すことが得意な方が多いと思いますので、誰かの役に立ちたい気持ちを持っていたり、自分から何かアイデアや楽しいことを考え出す発想力が豊かな方は、作業療法士に活かせる強みを持っていらっしゃると思います。作業療法士の力を発揮できる場所は病院だけではなく、多岐にわたると思うので、自分らしい働き方をできる場所はきっとあります。この職業にご興味を持たれている方は、ぜひ一歩踏み出してみてください!

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卒業生 ロングインタビュー 第2弾 (社会人編)

2024.04.25

【氏名】野村真弓さん
【略歴】
2009年3月 首都大学東京(現:東京都立大学)卒業
2009年4月 独立行政法人労働者健康安全機構 関東労災病院 入職
      現在,同病院 主任作業療法士
2022年4月 神奈川県立保健福祉大学大学院 入学

社会人から作業療法士を目指すに至った理由は?
 以前は銀行員でした.それなりに充実していましたが,一方で自分のこの先の人生を考えると,もっと直接的な手応えが得られる仕事に就きたいという思いもありました.当時,自己啓発や内省を深めるジャンルの本に興味があったので,それなら医療系の仕事が自分に合うだろうと思い,いくつか学校を回りました.その中で作業療法の説明を聞く機会があり,その時にピンときました.私は,「病気って治してもらうのはもちろん大切だけど,自分自身が変わらないと,生きる力を持てるようにならないといけないだろうな」という考えを持っていました.そこにアプローチできるのが作業療法だと理解し,作業療法士を目指そうと決めました.

入学に当たって気がかりなことはありましたか?
 30歳半ばからの入学でしたので,「勉強についていけるか」や,「年の差のある同級生と上手く付き合えるか」,それから「就職のこと」も気になりました.しかし,そんな心配は無用でした.勉強の方は,別の大学で学んだ経験もあるからか,先生方が講義で伝えようとされること,意図する内容がよく分かり,勉強は楽しかったです.クラスメイトに関しても,みんないい人で,もちろん未熟に見える部分はありましたが,一生懸命で根の部分は本当にいい人ばかりだと思えて,これまで自分が出会ったことのない人といいますか,とても新鮮に感じました.就職も特に大きな苦労はありませんでした.

就職後の新人時代はいかがでしたか?年下の先輩に仕事を教わる経験をしたと思いますが?

自分から壁を作らなければよいことは,大学生活で経験していました.ですから年齢の差を意識することはありませんでした.大学では自分にいろいろなことを気づかせてくれるクラスメイトに囲まれて感謝しかなかったです.それと一緒です.職場でも新人の私に沢山教えてくれて,とてもありがたく思いました.結局,自分の心の持ちようだと思います

現在,働きながら大学院にも通われていますね,その経緯や研究テーマを教えてください

就職して4年目くらいから,学会で発表するようになりました.これは大学生時代に臨地実習先の指導者から「作業療法の現場で起きていることをしっかり発表するのはとても大切」というお話を伺い,私もそうだなと共感したからです.学会発表は現在も続けていますが,そのような折りに,実習訪問に来られた大学の先生から大学院進学を薦めていただきました.その話をきいて,これからも現場の知見を発表することを思うと,一度,しっかり大学院で研究のイロハを知った方が良いなと考えました.また自分の病院以外の外の情報を知るのもプラスになると考えました.研究テーマは,急性期病院に入院する認知症患者のBPSD予防に関する作業療法士の取り組みに関する研究です.

最後に,作業療法士に興味のある方に向けたメッセージをお願いします

 私の場合,作業療法に関心を持ったのは「人には作業が不可欠」で「作業は人に力をもたらす」と普段から感じていたからです.作業療法士はそれを技術として身につけ,作業療法として必要な方に提供できるやりがいのある仕事です.都立大は総合大学なので,自分や作業療法士を目指す学生とは違う資質やセンスを持った学生とも交流できる恵まれた環境でした.学びの場としてお勧めします

取材を終えて
 社会人学生ならではの戸惑いや努力をお尋ねしましたが,それらはむしろ「心の持ちよう」で糧にもなるとの前向きな経験談が印象的でした.「手応えの得られる仕事に就きたい」という強い意志が野村さんの根底にあり、それが彼女の謂う”生きる力”につながっているように感じました。

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「社会人で作業療法学生を経験して、なりたかった自分になる」
卒業生 ロングインタビュー 第3弾 (社会人編2)

【名前】環子さん(仮名):首都大学東京(現 東京都立大学)7期生
【略歴】
1997年 3月 (22歳) 私立大学を卒業
1997年 4月 (22歳) 私立中学・高校 講師
1998年 4月 (23歳) 教育関係の企業に就職
2009年11月 (34歳) 首都大学東京(現 東京都立大学)健康福祉学部作業療法学科の
社会人選抜を受験し、合格
2010年 4月 (35歳) 本学作業療法学科入学
2015年 3月 (40歳) 本学作業療法学科卒業  作業療法士国家試験合格
2015年 4月 (40歳) 特別支援学校入職

東京都立大学 健康福祉学部 作業療法学科に入学したいと思ったきっかけ
 もう一度学びたい、人の役に立つスキルを身につけていきたいという思いは、30歳くらいの頃からあったと思います。当時の仕事は教育関係で、ありがたいことにたくさんの役割をいただき、充実した職業生活を送っていましたが、仕事を通して、学ぶことの楽しさや素晴らしさを実感することも多く、いつか私も・・・という気持ちがありました。医療に関わりたいと思ったのも、当時の仕事での経験が大きかったと思います。当時の仕事の中で、医療に関する時事問題などに携わる業務もあり、専門性が高く、人の役に立てる医療の仕事は素晴らしいという思いが高まりました。しかし当時の生活も心地よく、なかなか踏み出せないという期間が長くありました。
35歳が目前になり、年齢的にもやるなら今しかないと決意することができ、受験をすることを決めました。

作業療法を選んだ理由
 関心が高かったのが精神科領域だったので、作業療法学科か看護学科のどちらかが視野にありました。ふたつの中で作業療法学科を選んだのは、治療そのものに関わることができるという点に惹かれたからです。科学的根拠に基づいて個々の患者さんに適切な治療をすることができるようになりたいと思いました。医療的知識に基づいた科学的根拠という言葉を、受験したときはとても意識していました。実際には、科学的だけではない根拠についても必要ということが、入学してから分かりました。

東京都立大学を選んだ理由
 できるだけ良い環境で学習したいという思いは強かったです。設備なども重要ですが、やはり、一緒に学ぶ学生の意識は重要だと思っていました。
また、学費の面もあり、国公立大学しか受験しないことも決めていました。社会人生活を長く経験していたので、社会人選抜入試は活用したいとも思っていました。こうした条件に合う大学はいくつかありましたが、その中でも東京都立大学は、一般入試の難易度が高く、意識が高い学生が集まる大学だと感じ、ぜひここに入学したいと思いました。

入学後の学校生活
 一年生のときは南大沢キャンパスで、いわゆる一般教養の科目を中心に受講していましたが、前大学で取得した単位をたくさん認定していただくことができたので、週に3回程度の通学だったと思います。この期間は学業と並行してアルバイトでの仕事も行い、将来の学費や生活費を今のうちに貯めておこうと思っていました。
 二年生からは荒川キャンパスで、学業も本格的になりました。生活面を考え、アルバイトを従来通り継続しながら2年かけて二年生のカリキュラムを取得することに決め、学科に相談して実際に二年生を2回やりました。二年生は1月末か2月から臨床実習が入るので、アルバイトは2回目の二年生12月まで本格的にやり、その後は学業優先に切り替えました。
 勉強は大変でしたが、ためになりましたし、面白かったし、周りの学生も優しかったし、楽しみながら学校生活を送ることができたと思います。特に、大学で仲良くなった友達にはとても恵まれまして、その影響はとても大きかったと思います。その時の友達とは、今でも定期的に会い、情報交換をしています。

学校生活を支えるよい環境
 東京都立大学は、勉強する環境がしっかり整っていたと思います。中でも、周囲の学生や友達にはとても助けられました。みんながしっかりやっているから自分もがんばれるし、授業の雰囲気も良かったです。
 秋から冬にかけて国家試験の対策をしなくてはいけない時に、Aさんという自分よりも若い同級生の友だちが、一緒に勉強してくれていろいろ教えてくれました。その頃は、働いた後、夜の7時半ごろに荒川キャンパスに行って、図書館で9時半ぐらいまで勉強して、その後ファミリーレストラン(ファミレス)に行って11時半までまた勉強していました。Aさんも夜型だったようで、一緒にファミレスに行ってくれて勉強しました。私、国家試験の合格は無理かもしれないと思っていたのですが、それでも踏ん張って合格できたのは、夜、一緒に勉強してくれた友達と、周りの環境が良かったからだと思っています。
 また、大学から紹介されるアルバイトをしていました。ある知的障害のグループホームに行ったり、某区の発達センターに行ったり、作業療法に関連した仕事をアルバイトとしてできるようになって、そこでもやはり知見が広がりました。その後、教員になろうと思ったきっかけのうちの1つは、某区の発達センターの作業療法士のアシスタントを継続して2年位やったことだと思います。それまで知的障害というのがよくわかっていなかったので、発達センターでアルバイトを継続していく中で、作業療法の考え方や関わり方がわかって、かなり後押しされたというのがありました。

再就職の決め手
 発達センターでのアルバイトを通して、特別支援学校への関心が強くなりました。前職が教育関係だったこともあり、学校という環境に馴染みがありました。幸い、前の大学で教員免許状を取得していたので、教員採用試験を受けることができ、ダメ元で受験をしたら、運よく合格することができました。採用試験では、作業療法士のスキルそのものを求められてはいなかったと思いますが、大学で学んだ多くの知識や経験がベースにあったことで、特別支援学校に対する自分の思いを論理的に説明することができ、合格することができたと思っています。作業療法士の資格を必要としない就職先ではありましたが、大学で学んだことを生かすことは十分にできると考え、特別支援学校の教員になることに決めました。

今の自分に役立っている本学の学び
 自分が作業療法士の免許を持っているというのを職場でいう機会はあまりないのですが、学校での授業は、作業療法のプログラムと同じなのではないかと思っています。授業でやっていくことも、作業療法でいう「意味のある作業」と同じですし、長期目標、短期目標を決めて、それに対して段階的に取り組んでいくことも同じです。当初に作業療法士を目指すにあたってイメージしていた、根拠に基づいてその人に必要なことをその人の段階に合わせて積み重ねていく授業を行っています。生徒との関わりについても、作業療法士が患者さんとの関わりでラポールを形成していきながらあらゆる面から患者さんを評価して支援をしていくというやり方と同じように行っています。

卒業式でつけるコサージュ作りの場面

今後のキャリアアップ
 まずは、今やっている知的障害教育での専門性を深めていきたいです。また、作業療法士の資格を生かせる分野として、肢体不自由教育の「自立活動教員」がありますので、いつになるのかはわかりませんが、機会があれば挑戦したいと思っています。

社会人で入学を目指す方へのエール
 東京都立大学は、学生の意識が高く、授業の雰囲気が良いので、社会人が勉強しやすい環境だと思います。ここで勉強することができて、本当に良かったと思っています。また、作業療法士は、安定した良い職種、良い資格だとも思っています。100パーセント体力勝負ということではなく、知的労働でもあるというところでは、長く続けられる仕事だとも思います。作業療法の幅はとても広いので、これまでの社会人経験がどこかで必ず役にたつ職種だと思います。私は、受験を決意するまで何年もかかってしまいましたが、迷われている方はぜひ前向きに検討してくださればと思います。

取材を終えて
 社会人の都立大作業療法学科での学生体験と卒業後のキャリアについて、かなり赤裸々にお話しいただけました。環子さんは、仕事も学びも生活もチャンスを逃さないで選択してきた方で、自らの人生で「作業療法のプロセス」を体現していますね。この社会人入学という転機と学生時代の努力によって、なりたかった自分になれたのだなという印象を持ちました。