「研究を臨床教育の深化に活かしたい」
修了生 ロングインタビュー 第1弾
2024.04.24
【氏名】 丸山 祥 さん
【略歴】
2016年 神奈川県立保健福祉大学大学院 保健科学研究科 修士課程(リハビリ
テーション学)修了
2022年 東京都立大学 人間健康科学研究科 博士課程(作業療法学)修了
現在、湘南慶育病院リハビリテーション部作業療法科科長として勤務するかたわ
ら、本学の客員研究員ならびに非常勤講師を兼任している。
【所属研究室】 ボンジェ研究室
Q1. 大学院進学を考えたきっかけ を教えてください?
→ 「ライフステージの変化に伴い、自身の可能性を広げていきたいと思うようになったから」
臨床に出て数年経過した頃、臨床上の解決できない悩みにいくつか直面し、はじめは「臨床を深めるために勉強したい」という気持ちで進学を考え始めました。そのあと家族ができ、将来の選択肢を広げるためにも、研究ができるようになりたい、自分の作業療法士としての可能性を広げたいと思ったことが、進学に踏み切った直接的なきっかけのような気がします。
Q2. 現在の研究テーマに興味を抱いた理由 は?
→ 「臨床での立場や姿勢の変化が、研究興味を発展させた」
新卒後に入職した関東近県の病院はベテランセラピストが多かったため、作業療法士が臨床でどのように考えているか(クリニカルリーズニングまたは臨床推論)を明らかにしたいと思い、修士で研究に取り組みました。この時の研究は訪問リハビリの作業療法士を対象にしていたのですが、なかなか明確にならない側面があり、これは作業療法士によって臨床推論が異なるためだと感じました。臨床推論を学習し成長に結びつけていくために必要なのは評価方法だろうと思い至り、博士課程では、臨床推論を評価可能な尺度を作成することにしました。博士課程に進学した時は、新卒から数えて3つ目の今の病院に移動して2−3年目くらいの頃でして,それまでの経験とは違う「組織の立ち上げ」から携わっていました。ベテランに教わる側から若手・組織を育てる側に立場が変化していったことも,研究興味が修士から博士で変化した理由かもしれません。
職場の同僚たち&台湾の作業療法士と
Q3. 研究を進める上での苦労と喜びはなんでしょう?
→ 「自分の中の能力的な課題に向き合う辛さ/できるようになったと実感した時の幸福感」これは表裏一体です。
進学したばかりの頃は論文を書いたりするときに日本語の難しさを実感していました。博士課程に進学してからは特に英語での論文執筆にも挑戦させていただいたのですが、それまでは英語を避けてきていたところもあり、総じて、自分の苦手なことに向き合い続けるというところは、ある種の辛さを感じました。一方、大学院という環境で、学友や先生方と共にたくさんの失敗・成功体験を経て、「完璧ではないまでも、できるように進化し始めた」と感じたときが研究上の一番の喜びだったと思います。
今では、研究で作成した尺度に関して臨床の方や海外の研究者の方からご連絡をいただくなど、これまでになかった経験をしています。自分がリーチできる世界・繋がりが職場や周囲の人などの身近なところから、広がっていくのを実感できています。
ありがたいことに書籍の執筆依頼もいくつかいただいております。臨床推論が当初の興味から教育のほうにシフトチェンジしたからこそ、書籍執筆の機会をいただけるようになったようにも感じております。
最近掲載された英語論文
執筆に携わった書籍
Q4. 今後の研究活動や臨床活動の展望
→「互いに問題解決できる仲間づくりの仕組み/臨床からの研究サポート/海外からの実習生の受け入れ」に取り組んでいきたい!
先生をはじめとする様々な人とのつながりが、今後の自分を形作っていくということを、今まさに実感しているところなので、そうしたつながりを活かしていきたいと思います。具体的には、臨床で管理職の皆さんが悩んでいる状況をシェアし、互いに問題解決できるような仲間づくりの仕組みもできたらいいなと最近は思っています。
また研究をしたい・なにかを発展させたいという方に一人の臨床研究者として協力していくことで、その方が成果を情報発信するサポートはしていきたいと思います。
それから、ボンジェ先生の研究室には留学生がたくさんおられて、自然にみんな英語で話すゼミになっていったのですが、そういう環境を通して英語に少しずつ慣れていったことで、海外からの研修生の見学や3週間程度の臨床実習を受け入れるようになりました。これからも海外からの見学や実習を少しずつ受け入れていきたいと思っています。
留学生と過ごした時間
Q5. 大学院進学に興味のある方に向けたメッセージ
→ 「どんな環境で、どんな支援のもと何を得たいのかを明確にして進学先を選ぶと良い!」
東京都立大学の大学院は、世界を広げてくれる資源・リソースが詰まった場所だと思っています。総合大学ということもあり、あらゆる面で学びや経験の環境はかなり恵まれていると感じています。周囲の学生さんには留学生も多数いらっしゃるので、本当に色々な意味での刺激を受けられる場所だと思います。 大学院を選択する時は、どこの研究室に入るかということももちろん大事ですが、進学してどんな経験を得たいのか、大学にどんなサポート体制があるのか、どんな環境に自分が身を置きたいのかということを考えて、選択されると良いと思います。
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「大学院での人との出会いが、その後の臨床姿勢や挑戦意欲に影響を与えた」
修了生 ロングインタビュー 第2弾
【氏名】楠本 直紀 さん
【略歴】
2004年3月 東京都立保健科学大学卒業
2009年4月 台東区立台東病院に就職
2010年4月 首都大学東京大学院修士課程に進学
2012年3月 首都大学東京大学院修士課程修了
2024年4月 台東区立台東病院 リハビリテーション室責任者に就任
Q1,大学院ではどのような研究をなさっていましたか?
大学院には臨床に出てから7年目で進学しました。働いている地域に根差した取り組みができたらよいと思い、台東区にある山谷地域にお邪魔して、その地域にお住まいの方に日常の作業のお話を聞いたり、一緒に過ごしたりするフィールドワークのような研究をしました。その時点ですでにその地域で支援をおこなっているNPO団体も存在していたので、私が一時的にそのエリアで関わって行えたことは限られたことだったと思います。それでも、当院では地域生活・路上生活の中で体調を崩して入院される方もいらっしゃいますので、その地域の皆さんの生活背景を知ることは、作業療法士としてのその後に生かされています。
Q2. 修士での学びがその後、どのようにご自分の臨床や人生に影響を与えたと思いますか?
大学院に行くことは自分の視野をとても広げてくれましたし、論理的に考える能力を身につけることができました。単に研究手法を学ぶということだけではなく、その環境でいろんな背景を持つ大学院の同級生たちと出会って、議論を通して相手の考えをたくさん吸収できたことが、その後の臨床に大きな影響を与えたと思います。臨床をしながらの研究は大変でしたが、苦しい中で努力して修了した事実は、ある種の達成感を与えてくれましたし、自分が決めたことをやり遂げるという経験は自分の人生においても大切な経験だったと思っています。
Q3. 現在の職場ではどんな取り組みをされているのですか?
今年からリハビリテーション室の責任者をさせていただいておりまして、最近では、OTだけでなくPTもSTも含めたマネジメントをしています。臨床家として「臨床をやりたい」という気持ちだけでなく、組織を管理していくことをきちんと進めなくてはいけないと思っています。
また、当院では養成校の臨床実習は積極的に受けています。実習生は患者様に活力と刺激を与えてくれる存在だと思っています。実習生にしかない力を発揮してもらえるよう、実習環境を整えることも意識しています。
また、職場として以前から国際的な交流を推進しています。病院の様々な部署で積極的に留学生を受け入れる体制をとっております。作業療法士だけではなく、医師や理学療法士、看護師の留学生の見学を受け入れており、海外から学びに来られる方が一年を通して多くいらっしゃいます。
Q4. 国際交流を推進するにあたり、苦労した部分とやりがいになっている部分を教えてください。
自分自身海外の文化などに興味があったことに加え、病院長がそうした新しい取り組みや来客の受け入れに前向きだったことも、後押しになりました。そのような交流ができるということは、相手の文化や相手の背景を理解しようとするプロセスを経験することなので、クライエントを理解する姿勢が育まれる機会だと思っています。
国際交流自体は、初めは戸惑うスタッフもいたかもしれませんが、今では若手のスタッフも受け入れに前向きに取り組んでくれており、感謝しています。私はこのような機会に、病院のありのままをみていただくことを大切にしていますので、リハビリテーション室スタッフには責任者として具体的な要望を述べることは控え、なるべく自然体の臨床場面をみていただき、あまり気負わず取り組んでもらうことを意識しています。
当院の今後を担う後輩たちが、国際交流に積極的に携わってくれることも歓迎ですが、相手の国籍やライフスタイルがどうであれ、地域で暮らす人々を作業療法の立場で支えたいというモチベーションを持った人材を育成していきたいと思っています。
Q5. 今後、職業人として取り組んでみたいことがあれば、教えてください。
医療保険や介護保険における介入だけではなく、地域住民の介護予防やヘルスプロモーション活動など、地域を健康にする活動をどんどん取り組んでいきたい思いがあります。
たとえば東京都作業療法士会の理事として、eスポーツやパラスポーツなどのスポーツ支援の事業にも関わらせていただいております。様々な障害や制約があっても、スポーツに参加できるように、作業療法士として何ができるか、考えながら取り組んでいます。新たな時代の流れに沿って、より有効な方法を提供するために研鑽を続けたいと思います。
また、日本の人口構造を考えると、今の若手層が第一線で活躍する30代・40代の頃には、都心部でも病院に来る患者様の減少が見込まれています。これまで病院は“患者さんが来てくれる”場所でしたが、今後は状況が変わってくると思います。新たな時代を見越して、地域の健康を促進するために、地域の事業所や一般企業の方々とコラボレーションなどし、病院が取り組むべき活動を若手のスタッフと模索していきたいです。